死者の行列か、百鬼夜行か 箱根の巻
カメラマンの車にコピーライターとともに同乗して渋谷を出発した。
こうして今回の取材撮影はスタートした。
天気は、まあまあの花曇り。
お仕事の企画内容は、南足柄から箱根周辺への日帰り温泉ドライブと立ち寄り土産物というもので、一件目の取材先は、めずらしい茶葉を売っているというお茶屋さんだった。
悪くないスタートだったはずだが、どうしたことか、私は、一件目の取材地に到着目前で、どうにも気持ち悪くなってきて・・・。
そのうちお腹もいたくなってきて、真っ青状態に陥った。
でも自分が率いたチームメンバーを前に具合が悪いとも言えずに、我慢を続けていた。
やっとのおもいで到着した取材現場では、お茶屋さんの店主であるおばあさんとの挨拶もそこそこにトイレへ駆け込んでしまった。こんなことははじめてだ。
冷や汗でびっしょりだったのを思い出す。
取材に行く車の中で急激に具合が悪くなっていた私だったが・・・
薬が効いたのか、取材だ、撮影だ と、動いているうちに、なんとか体調は回復してきて一安心。二件目の取材先に向かうことができた。
二件目は温泉。日帰り入浴温泉を主体とした、エステや森林浴を優雅に楽しめる女性むきの洒落たホテルだった。
ホテルは、森のなかにあるリゾート風のつくりで、日差しも充分に取り込める美しい環境空間だ。
それなのに・・・、私は、なぜだか、暗いざわつきを感じていた。それがとても不思議だった。
コピーライターの女性も、アシスタントの女の子も、いいねー!っと、はしゃぎだした。
それもその筈、お部屋は明るく、森を向き、草木の息吹を感じられる構成だ。
静かな、いいリゾートって感じ。
母と娘とでゆっくり来る人も多いらしい。
施設の方もとても感じがよくて、いい雰囲気だ。それなのに・・・。
お風呂は、地下におりていったところ。
はっきりと覚えているのは、その廊下が、暗くしずんでいた事だ。
この私だけが感じているらしい、ざわつきは、たぶん、いつもの、「あれ」なんだろう。
ここが、森の中だから・・・なのか?
生息していた?している?動植物たちのざわめきなのか? なんだろう。
この地域には、肉や野菜、うずらを開いたりして、串に刺して食べる猟師料理があったり
猪鍋なども名産で、前にも取材したくらいだから、確かに、森なのだ。
なんとなく、しっくりしないものを感じていた私は、みんなのはしゃぐ声をよそに
早々に取材を切り上げることにした。
いよいよ次は、南足柄から、今度は箱根方面へと向かう。
三件目は、箱根の端っこにある、そば打ちもできるという不思議な温泉だ。
そこに向かうには細いくにゃくにゃした道を行くことになる。
ところが
車に乗り込んで少しすると、細い通りなのに、たくさんの人たちがゾロソロ歩いてくるのに出くわした。
しかもほとんどの人が白い着物を着ている。
しばらくの間、この不思議な光景に見とれていたが、みんなどう思っているのかな?と気になり、声をかけようとして後ろのシートを振り返ったのだが、隣で運転しているカメラマン以外は爆睡だった。
朝が早かったからな〜。
しかし、この行列、何のイベントかな!
白い着物の人に交じって、鬼のようなお面を着けた人。
三角の死人のようなマークをつけた人。
髪をボサボサにして、手には大きな棒切れのようなものを持った、おばあさん。
子供もいる。子供は特に変な衣装だ。
傘をかぶり、高下駄をはいて。
あ、天狗のような格好の人もいる。
大きな顔だけのお化けの格好も。
兎に角、長い、長〜い、行列だ。
あああああ!今度は戦国武将のような鎧のご一行様だ。
すっごい無表情・・・。
あれは、槍かな、長い棒を持って歩いている。
あんまり変な格好のヒトばかりで、私は呆れてしまった。
そんなに怒って、行列しなくてもいいのに。ま、何の、行列イベントでしょうか。
山形の合戦絵巻の行列も、箱根の武将行列も、見た事はあるけれど、今回のは、なんだろう。変にリアル。でも意味がわからない。
見物客もいないし・・・。
「ねぇ、◯◯さん、ぶつかっちゃうよね。もう少し、端っこを通るとか、交通整理してくれないとね〜・・・」
「◯◯さん、ってば!」
声をかけても、運転しているカメラマンは、前を凝視して、全く反応がない。
機嫌が悪くなっちゃったのかな〜〜!と思って、黙る事にした。
私は、こうして30分ぐらいは行列をながめていただろうか。
でもおさまる様子がない。
少しぼんやりとした意識で眺めていたのだろうか。
ふっと我に返ると、その行列は正面から向かってきて、完全に車を突き抜けていた。
大きな顔の、顔だけの、お化けが大きな舌をだして近づいて頬をなめ上げる。
ぎゃー、といっても、声が出ない。
誰も、起きない。
これは、おかしい。おかしな事になってしましった。
この土地の自縛なのだろうか。不思議なエネルギーのある土地だということは、前から知ってはいたが・・・。
何かが(誰かが)私に、それを、はっきりと、見て、体感させたかったのだろう。
ただ私は無関係な仲間と一緒に来ているので、これ以上は危険と判断した。
そうでなくても、行列はどんどん大きくなっているし、もう真ん中を通っているし、こちらを見て、笑っているし・・・。
行列の人たちの体が透けてきているし・・・。
私は、神経を集中させて、そこに見える映像の、基になっている何かのビジュアルを見るように努力した。
でも、テレビに出てくる霊能者でもないし、よくわからない。第一、そんなことがわかる人が本当にいるのかな。
私は、ただ唖然としているしかなかった。
こんなことははじめてだった。
うっ、へへへへっ!・・・という、高い声の笑い声があちこちから聞こえてきて、もうこの世にいるとは思えない状況だった。ぱんぱんと頬を叩いてみるが、夢であってほしいが夢ではない。
これは、黄泉への行列???
カメラマンの◯◯さんの「さ、ついたよ!」という声で
はっと、我に返ると、何もかもが消えている。
古い旅館の前で車は停車していた。
その旅館は、私の目には見るからにちょっと不気味さを感じるところだった。
暗く感じる。
廊下もずっと暗い。温泉は宿の中央にあり、それぞれの客室から窓を開ければ見えてしまうつくり。大きな温泉だが1つしかなく。混浴だと言うことだった。
変わったところだな〜。
取材も終わり、ちょっと重い気を感じながら無事にその場を後にした。
カメラマンは何でもよく知っているベテランのおじさんだったので、「変わったところだったね。」と聞いてみた。すると、「ま、普通じゃないよね。」
「もともと普通の宿ではなかったのではないか。たとえばお姉さんを連れてお忍びで行くとか、そういったグループで行くとかね。だって窓開けたら見えるんだから、奥さんや娘さんとは行かれないでしょ。」
「それにこの辺りは箱根でも本流じゃないから。遊郭的なものがあった名残じゃないかね。そういった悲しい思い出もそのまま残っている気がするよ。」と言いづらそうに話してくれた。
それを聞いて、場所が場所なんだよな〜。と納得した。
私が今日1日かけて見ていたものは、古くからこの土地に残ってきた邪気なんだろうと納得がいった気がした。
仕事現場で具合が悪くなってしまうとは自分でもだらしないと思って反省しています。この取材先は土地柄が私と合わない場所だったのかもしれません。夢なのか、夢であってほしい!と思ってもそうではない。そして誰もが無反応!この時の追い込まれていく恐怖感は、もう2度と体験したくないです。
今回までが先に書いてあったものです。その後、メモ的に書いたものがありますので、そちらを整理してまた掲載していきますので宜しくお願いします。