叔母をみとる 第4話 奇怪な話し
ふみ子が嫁いで間もない頃のこと。ふみ子が姑の言いつけで買い物に出かけている間に、店に常連客が血相を変えて飛び込んできた。
「今、川に釣りに行っていたんだが、その釣り場で、ふみ子の父親という人に出会ったんだ」と、その常連客は、初老の釣り人にふみ子の暮らしぶりを聞かれたそうだ。
だいぶ気にかけているようなので、一緒にお店に行きましょうと、父親と名乗る男を誘ったところ、「いや、自分はふみ子が幼い頃に別れた実の父親で、ふみ子はそのことを知らない。最近、結婚したと聞いて様子を見にきたが、幸せならば、それでいいんだ」といって去っていってしまったという。
これは大変だと思った、その常連客は、その足で店に報告に飛び込んだのだという。
買い物から帰ったふみ子は、その話を聞かされて、バカなつくり話だと気にもとめなかったようだ。もちろんふみ子は父の実の妹であり、私のおじいちゃんの本当の子供である。
やがて月日は流れ、姑が亡くなる頃になって、叔父自身の出生に突飛もない秘密があることを聞かされたそうだ。その後、姑が亡くなると叔父と二人きりの生活がはじまり、しだいにふみ子は叔父に洗脳されていったのだろうか。
今回の父の葬儀の席で、ふみ子は妹のあさ子に、自分たちは本当の姉妹ではないという、常連客から聞いたという話をしてしまい、しだいに姉妹の仲は決裂していく。
私は、あさ子に葬儀のお礼の電話をした際に、「ふみ子姉ちゃんが、姉妹ではないとか、訳のわからないことをいっている」と聞かされて、きちんと話を聞かなければいけないと思い、叔父の家に出かけたのだった。
そこで、この奇怪な話を、直接、常連客から聞いたという叔父から聞くことになった。
驚いたことに、叔父はこの話を全くの真実だと思っていた。その理由は、非常に勝手なもので、ふみ子は、他の兄弟たちとは顔が似ていないが、兄である父とその子である私とは似ている。だから叔父は、兄とふみ子の二人は兄弟かもしれないが、他の5人は違うだろうというものだった。
ふみ子の様子からは、不安を抱えているが、叔父の話を鵜呑みにしているわけではないことはわかった。そういった不安もあり、父と話がしたかったのだろうと少し哀れに見えた。
しかし、話はこれだけでは終わらず、夫婦の意見に相違があるのには、他に理由があった。
実はこの頃、商店街に泥棒騒動が起きていた。
近くのスナックや叔父の店を含む3件くらいの店に、夜な夜な空き巣が入ったのだ。商店街では大事件ということで警察に調べてもらったが犯人は捕まらなかった。
叔父の店は、路地裏の住まいを建ててからは、夜はそちらで休むことにしていたので深夜は不在になるが、そのことを知るのは近隣のわずかな人だけだという。またレジや金庫のお金だけではなく、ふみ子が叔父にも内緒で隠し持っていた、ふみ子自身の貯蓄を入れて隠しておいたバッグもなくなっていたという。
叔父はこの2つのことから、犯人は叔父の家に宿泊し、家の中をよく知るものの犯行だと考え、ふみ子の弟ではないかと疑ったのだ。
もちろん、ふみ子の弟である私の叔父は、警察の調べを受けることもなく、全くの濡れ衣であることは誰が聞いても明らかだった。しかし叔父は、隠しておいたバッグを見つけることは短時間での空き巣には不可能だという考えを譲らなかった。
ふみ子は兄弟と叔父の間に挟まれて気の毒ではあったが、叔父は強情で、話が一向に埒が明かないままとなってしまった。が、1世代上の話でもあり、私には手のつけられない状態となった。
やがて2年目に訪れる3回忌の日取りが決まった。我が家のお墓は、母の疎開先である群馬県にあり、参列者は減っていった。でも父の直系の親族である、ふみ子夫婦や、妹のあさ子夫婦はきてくれた。
3回忌が終わり、ひと息着いた頃に、私は、ふみ子夫婦の家に呼ばれたのだった。
看取りで、いろいろなことがおこると結果として相続に関しても問題が出てくる。嫌なことですが、勉強をしておかないとならないことでもありました。